私とHHKB(Happy Hacking Keyboard)との付き合いは、通算で5年になります。正直に言うと、私はこれまで何度かHHKBを手放してきました。今思えば少し遠回りでしたが、その試行錯誤があったからこそ、ようやく「これでいい」と思える一台に辿り着きました。
今使っているのはHHKB Professional HYBRID Type-S(炭・英字配列・無刻印)です。入力デバイスは仕事の効率を上げる道具でもありますが、私にとってはそれに加えて「思考を邪魔しないための装置」です。気づけば、これは体の一部のような存在になっていました。

使い始めたきっかけ
最初のHHKBは、JIS配列(日本語配列)・刻印ありのモデルでした。HHKBには独特の思想があり、英字配列では物理的なカーソルキーが独立していないため、Fnとの組み合わせで操作する場面が増えます。最初からその世界に振り切る自信がなく、まずは刻印ありの日本語配列で入った、というのが正直な理由です。
しばらく使っているうちに、次第に元々憧れていた英字配列に興味が移っていきました。キーの配列がよりミニマルで、見た目も操作も道具としての余計な情報が減る。その方向性に惹かれて、私は一度HHKBを手放し、改めて英字配列・無刻印(雪)に乗り換えました。
無刻印は、最初は不安がありました。キーに文字がないのだから当然です。ただ、それは「慣れ」の問題で解決できると分かっていました。むしろ、私が無刻印に惹かれた理由は別にあります。
キーボードに刻印があると、視界の中に余計な情報が残ります。入力に慣れていたとしても、無意識に文字を拾ってしまう回路が残ります。私はその微細な注意の移動が、思考の流れをわずかに濁らせる感覚がありました。
無刻印はそれを断ち切れます。視界に入る情報が減り、意識がキーボードから剥がれやすくなります。これはデザインの好みというより、注意資源の管理に近い話です。
その後、興味を引かれたのが新たに発売されたHHKB Studioでした。私はThinkPadのTrackPoint(赤ポチ)に慣れていたこともあり、「ポインティングデバイスが内蔵されるならマウスを減らせる」という合理性に惹かれました。ただ、私には外へ持ち出して使う場面もあり、重量がネックになって手放しました。
そして最終的に辿り着いたのがHHKB Professional HYBRID(炭・英字配列・無刻印)です。白い無刻印(雪)も魅力的でしたが、ThinkPadをメインに使っているので、色の統一感を優先して炭を選びました。ここまで来てようやく、落ち着いた感覚があります。
使い始めて分かったこと
使い続けて分かったのは、HHKBの快適さは「打鍵感」だけではないということです。もちろん打鍵感の良さはありますが、本質はむしろ指と意識の移動が減るところにあると考えています。キー数が少なく、指の移動が最小限になる前提で設計されているので、慣れるほどに入力が滑らかになります。
英字配列は、物理的なカーソルキーがない分、最初はFn操作に慣れが必要です。ただ、これは壁というより身体化のプロセスでした。ある日から、矢印キーを探す感覚が消えました。すると入力中の意識が、操作から文章へ戻っていきます。結果として、思考の連続性が保たれやすくなったと思います。
そして無刻印は、さらにその方向を強めます。キーに文字がないというだけで、視界のノイズが減ります。入力に慣れるまでの時間は確かに必要ですが、そこを超えると見ないで打つことが前提になり、意識が余計なところへ逃げにくくなります。私の場合は、無刻印はデザインの美しさ以上に、注意資源を守るための選択となりました。
今は、キーボードを入力するための道具というより、思考を邪魔しないインターフェースだと捉えています。HHKBは、そこが徹底されているのでファンが多いのも納得できます。
これまでは紆余曲折ありましたが、これからはこの一台を淡々と使い続けることになると思っています。壊れるまで使いたいというより、壊れる気配がない道具を生活の標準装備として使い込んでいく。この感覚が、今の自分には心地よいものになっています。
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